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出血は簡単には止まらなかった

Aは父をよく誘導していたため、必ずウエットティッシュを持っていた。

ほかにも、トイレットペーパーなども父のために必ず用意していた。

トイレがないところを旅することはたくさんあったし、トイレがあってもトイレットペーパーがないこともよくあったからだ。

Aがすぐさまウエットティッシュを取り出したのは、父の出血を止めるためと、父が危険な菌に感染するのを防ぐためだったのだろう。

だが、父の出血は止まらないようだった。


 
投稿者:三女, カテゴリ:父が全盲であることについて, 08:35
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海外旅行に必須のウェットティッシュ

外国に行くときは、ウエットティッシュや便座クリーナーが必須だった。

特に当時のインドは今よりもなお発展途上にあり、清潔さは望めなかった。

また、当時ほとんどのインド人はトイレの際、水と手で尻を清めており、壁、床、椅子、食べ物などあらゆるものから下痢や赤痢に感染する恐れがあった。

実際集団で腹を壊し、点滴などの治療を必要とした人たちもいる。

彼らはインドの首都ニューデリーで旅の開始時に倒れ、父が旅を終えてニューデリーに戻ってきたところで、一緒に日本へ帰ることとなった。


 
投稿者:三女, カテゴリ:父が全盲であることについて, 17:16
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血が……

「大丈夫か、大丈夫か、A!」

起き上がった父が問う。

「大丈夫ですか、大丈夫ですか?」

Aが父に問う。

「大丈夫か、怪我していないか?」

「大丈夫ですか、すみません。本当にすみません。大丈夫です。わたしは大丈夫です」

「本当に大丈夫か?」

そのときAは父が怪我をしていることに気づき、何かに追い立てられるようにウエットティッシュを取り出しては、父の傷をぬぐいはじめた。

Aはほとんど泣いていた。

「怪我してる。すみません、すみません」

父の傷をぬぐったウエットティッシュは、血に染まっていた。

Aが父の傷を消毒するのを助けるため、側に立っていたBさんもウエットティッシュをAに差し出した。


 
投稿者:三女, カテゴリ:父が全盲であることについて, 12:24
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体をずらした父

階段から足を踏み外したとき、父の手はAの肩に置かれていた。

そのまま床に激突していたら、父はAを押しつぶしていていただろう。

だが、父は床に激突する前に、Aを下敷きにしないよう体を少しずらしたようだった。

それでも、一部は折り重なっていた。


 
投稿者:三女, カテゴリ:父が全盲であることについて, 01:39
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おそるおそる2人の側へ

世界が凍り付くのがわかった。

2人とも倒れたまますぐには動かず、恐怖がわたしの心を締め上げた。

まわりの人たちも動けなかった。

父もAも、わたしにとって大切な人だった。

確かめに行くのがこわかった。

打ち所が悪かったら? 父がA の上に落ちて、Aを押しつぶしていたら……。

もしこのまま、2人とも動かなかったら――。

だがそれは、本当は一瞬だったのかもしれない。

2人が動きはじめると、凍っていたその場の空気が溶けた。

わたしはおそるおそる2人の側へ行った。


 
投稿者:三女, カテゴリ:父が全盲であることについて, 10:19
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