Aの怪我を気にする父

Aの怪我を気にする父

ぬぐってもぬぐっても、ウエットティッシュが赤く染まっていく。
思ったより傷が深いのかと心配になったとき、
「A! Aの方がひどい怪我してるじゃない!」
Bさんの甲高い声が、あたりに響き渡った。
確かにAは、肘や手から出血していた。
ウエットティッシュは最初は父の傷口をぬぐったが、その後はA自身の血を吸っていたのである。
「大丈夫か? 怪我はひどいのか?」
「大丈夫です。大丈夫です」
Bさんが差し出すウエットティッシュは、次々と血に染まっていった。
それでもAは、「大丈夫です」と繰り返していた。
「どうなんだ、B。Aの怪我はひどいのか?」
心配そうに見えない目をAに向ける父は、本当にもどかしそうだった。
心配性の父のことだ、目が見えたら、自分のことなど放っておいてAの手当をしただろう。
だが、Aが負った傷がどこにあるかもわからない父には、手当をすることなどできなかった。
 

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