経行(1)
かつてオウム真理教には、「経行(きんひん)」という修行がありました。
「経行」とは、集中して歩くことをいいます。
父は修行の際はたとえ家族であっても、触れることを好みませんでした。
わたしが子どものころ、大病を患った父が、治療の一環として経行を行っていたことがあります。
父にとって、治療と修行はほとんど同じ意味を持っていました。
このときは父が居住していた建物の屋上を、父が転んだりしないように清掃し、ビルの端から端までロープを渡しました。
そのロープにつり輪状の器具をつけ、父は最初それを握った上で人に付き添われ、「あと30センチです」とアナウンスを受けながら、1人で歩く感触を確かめました。
安全性を確かめると、あとはひたすら1人で経行をし続けました。
何時間も、何時間も毎日黙々と歩いていました。