理性の片鱗を探して――
沈黙するわたしたちの前で、父は20分も30分も、ただ一人脈絡もなく相づちのような音を発し続けていたのです。
――それでも、わたしたちは懸命に、父の中の理性の片鱗を探そうとしました。
しかし、姉やわたしのみならず、父が成長を見たかったであろう弟たちに対しても何の反応もないのを見て、わたしたちは自分をごまかせなくなりました。
父にとって、わたしたちは空気と同じでした。
接見に来たことにすら、気づいてはもらえませんでした。
ひとりうなずき、ひとり笑い、ひとり苦しみ、けいれんを起こし、ひとりうめく。
物理的にはアクリル板を挟んで50センチぐらいしか離れていないのに、父はあまりに遠い世界に行ってしまっていました。
父といつか会い、話すことを支えに生きてきたわたしにとって、父が重篤な病気であるという事実は、絶望的な現実として眼前に突きつけられました。